私は2024年3月末で15年以上続けた消防士を辞めました。
この時期になるとSNSで消防士さんの訓練についての投稿が多くなります。
消防の公式アカウントが訓練風景を撮影した様子をアップものであったり、訓練をしている人やしていない人に対しての様々な意見も飛び交っていますね。
私自身、若かりし頃は仕事中も休みの日でも、雨だろうと風が吹こうと指導会訓練に明け暮れ、その結果、地区予選を勝ち抜き、全国大会に出場したこともあります。
そんな15年以上の消防経験を経て一市民となった私が今話題の指導会訓練についての見解を熱く語りたいと思います。
この記事では
- 指導会って何?
- 指導会がなぜ話題になるの?
- 指導会についての私の見解(経験を通じて感じたメリットデメリット)
- 現役消防士さんに伝えたいこと
をお伝えします。
消防士さんも、市民の方も見てくれたら嬉しいです。
指導会って何???
一般社団法人全国消防協会が運営母体の「全国消防救助技術大会」のことで、昭和47年から毎年開催されています。
毎年8月に実施され、その約1ヶ月前に各地で〇〇地区指導会が実施され、そこでの上位入賞者が全国消防救助技術大会に出場する権利が与えられます。
その指導会に向けて各消防本部で行う訓練を「指導会訓練」や「救助訓練」と呼びます。
陸上の部と水上の部で多くの種目が設定されています。
その目的は、、、(現役消防士さんでも知らない人もいるとかいないとか?!)
この全国大会は、救助技術の高度化に必要な基本的要素を練磨することを通じて、消防救助活動に不可欠な体力、精神力、技術力を養うとともに、全国の消防救助隊員が一堂に会し、競い、学ぶことを通じて、他の模範となる消防救助隊員を育成し、全国市民の消防に寄せる期待に力強く応えることを目的としています。
https://www.ffaj-shobo.or.jp/rescue/
また、全国大会を通じて広く全国の市民に、消防の技術の高さ、力強さ、優しさをアピールするとともに、常に市民の目線に立って大会内容を研究し、全国大会を未来志向の大会とすることを目標としています。
簡単に要約すると、『たくさん訓練して心身ともに鍛え上げて、素晴らしい消防士になりましょう!
その成果を市民の皆様にもちゃんとアピールしましょうね!』
といったところでしょうか。
ちなにみ2024年の全国大会は8月23日(金曜日)
陸上会場
千葉県市原市菊間783-1
「千葉県消防学校」
水上会場
千葉県習志野市茜浜2-3-3
「千葉県国際総合水泳場」
で開催されます!
指導会訓練が話題になるのはなぜ?
市民目線で話題になるのは、SNSなどで訓練の様子を見て
「何これ!すごい!」
と反響が出るパターンです。人間離れした訓練動画にコメント欄は驚きのワードで溢れています。
一方で消防内部でSNSで話題になるパターンは
あんなのただの運動会じゃん
現場で使えないよ
こっちは救急現場で忙しいのに、、、
とどちらかといいうとネガティブことでSNSが賑わってしまいます。
今日は後者のネガティブな賑わいに対して触れていきたいと思います。
私の指導会訓練の経験とそこで感じたメリット3選デメリット4選
私自身は新人の頃から5年以上指導会訓練に参加していました。
個人競技をしたこともありますし、先輩や後輩とチーム競技に参加したこともあります。
何とか全国大会に行きたい!その思いから仕事中はもちろん休みの日もひたすらに頑張っていた記憶があります。
指導会訓練で感じたメリットとデメリットをお伝えします。
訓練バカだった私が感じたメリット3選
1.チームワークの強化
チーム競技をしている者同士はもちろん、他の種目の訓練をしていても、全国大会を目指して共に訓練の時間を共有することで、とても強い絆が生まれます。
また訓練を通じてたくさんの時間を共に過ごしますし、肉体的にも精神的にも苦しい場面を乗り越えていく中でお互いの人間性を深く知ることができる。
メンバー間のコミュニケーションが円滑になるのは明らかです。
2.自身の救助スキルの向上と心身の強化
ロープやカラビナ、空気呼吸器をいかに素早く正確に取り扱うことができるかを追求することで、まるで自分の身体の一部のように使うことができるようになります。
また、繰り返し訓練をすると肉体的に鍛えられるのはもちろん、厳しい訓練に直面した時に出てくる弱い自分と向き合うことで精神的にも鍛えられます。
数ヶ月の訓練を乗り越えた先に迎えた本番のスタート直前、私の手足は緊張でブルブル震えていました。
大人になってそこまで緊張できる場面ってなかなか無いですよね。
3.他の本部との繋がり
他本部と合同訓練をするところがあったり、地区予選で何度か顔を合わせる中で仲良くなったり、中には懇親会と称して飲みにいったこともあります。
そんなことになんの意味が?と思われる方もいるかもしれませんが、本部ごとに違う消防体制や使っている資機材の情報交換をしたり、有益なことも多かったです。
一番つながっていて良かったと感じたのはあの大規模災害が起きた時の緊急援助隊が組まれた時の話です。
他の本部の方と一緒に活動することになったのですが、そこで組まれた隊員の中にあの飲み会メンバーの1人がいてくれたのです。
見ず知らずの土地でいつもと違うメンバーの中で災害活動。その中に顔見知りがいた時は本当に心強かった。
訓練バカだった私が感じたデメリット4選
1.時間とリソースの消費
大会が近づき、本格的な訓練が始まると多くの時間とリソースが必要になります。
休日で訓練に参加することもありましたし、頭の中は訓練だらけ。
日常業務と訓練の両立が難しくなることもありました。
2.精神的・肉体的負担
集中的な訓練や大会のプレッシャーが、精神的・肉体的な負担になることがあります。
一生懸命になるあまり、ケガをしてしまったり、大きな事故を起こしてしまうことも。
まるでアスリートのように自分やチームと向き合う中でメンタル的にもキツくなってくることもありました。
3.業務の調整
訓練期間中は通常業務の調整が必要で、特に小規模な消防署では人員不足が生じることがあります。
訓練中も災害対応に影響が全くなく、普段通りの出場体制を確保している。そんな本部は少ないどころか、ほぼ無い思います。
4.金銭的な負担
これは個人も組織的にも負担が発生します。
自分が使いたい革手袋や編上靴、ローブ、カラビナなどは自分で購入していました。また救助服の下に着る機能性インナーシャツやスポーツドリンク、プロテインなども購入していたので出費が多くなります。
消防の予算としても指導会訓練にかかるお金は配分は大きいのです。
なぜなら、先ほど述べたように非番や休日での訓練参加することも多いので、多額の超過勤務手当が発生するし、ロープなどの消耗品の大量購入する必要があるためです。
訓練をしている消防士さんにメッセージ
おもっきりやりましょう。
後ろめたさを感じることは何もありません。
ただし、あなたに情熱があることが大前提です。
どうせ運動会。
やっても無駄。
そんなことに予算や時間を費やすなんて。
そんなことを言われたって、消防組織として、指導会訓練という業務が存在しているんです。
その業務に参加したいならおもっきりやればいいじゃないですか。
人にとやかく言われる筋合いはない。問題があるとするならば、訓練のシステムや業務体制だ。
そこは隊員のあなたが気にする必要はありません。やってやりましょう。
自分の限界と向き合い、何かに挑戦できる機会はそう多くない。
私の経験上、訓練で得たものは、すぐに成果となり現れてくるものばかりではありません。
でも今取り組んでいること一つ一つがあなたの血となり肉となっているのです。
いつか振り返った時にやって良かったと思える日は来ます。
応援しています。
一方で「とにかく辛くて、何も得るものがない。」とと感じている人へ
そう感じている人はするべきではないと考えています。
先述したようにあなた自身の大切な時間も消防組織の予算も使わています。
いやいやするぐらいなら思い切って違うところにリソースを割けるように動きましょう。
それが難しいことはわかっています。ですが、「辛い苦しい」だけの訓練には私は賛同しません。
次に、後輩と一緒に訓練に参加している人へ。
1秒でも早く、タイムを求めることは大事です。優秀な成績を残すことも大事です。
ですが、それ以上に後輩職員があなたと訓練できてよかった。
そう思えるような訓練の期間にしてあげてください。
私自身の経験として、全国大会への切符を勝ち取った時、これまで積み重ねてきた努力が報われた瞬間でもあり、それはそれはすごく感動したのを覚えています。
ですが、今自分の中で全国大会を決めた瞬間以上に思い出されるのは、日々の訓練の想い出です。
「あぁでもない、こうでもない」と言いながら何百回、何千回も同じ部分を訓練したり。もう無理だ。と何度も心折れかけながら続けた通し訓練。夜中まで続いた動画での研究。本当に少年漫画のように励まし合い、時にはぶつかり合いながら、笑ったり、泣いたりしました。
訓練の時期は家族よりもチームメイトとの方が長い時間を共に過ごしていましたね。
すこし昔を思い出して熱くなりすぎ、脱線してしまいました。
何が言いたいかというと、日常の訓練の中にこそ大事な価値がありますよ。ということです。
ただタイムを縮めることだけを求めてしまうと、本番が終わった後に残るものは何でしょうか。何も残らない気がします。それでは勿体なさすぎる。
訓練を通してあなたが後輩に伝えられるものは何でしょうか。
仕事への取り組み方?努力することの大切さ?相手を思いやる気持ち?準備や片付けの重要性?やるべきことに優先順位をつけること?仲間意識?資機材の取り扱い?周りの人たちへの感謝?魂?
たくさんあるはずです。
共に高め合っていけるような関係を築き、訓練のチームメイトとしてだけでなく、生涯心が通じあう家族のような存在になってほしいなと思います。
訓練をしていない消防士さんにメッセージ
やっても無駄だよ!
実際そんなこと現場で使えんだろ!
と言いたくなる気持ちもわからなくもない。
特に夏場で救急指令が頻発して、ご飯を食べることも仮眠をとることも、汗だくなのにシャワーを浴びることもできない。
こっちは現場で忙しいんだよ!
そんな状況なのに、運動会の練習ばっかしてて、お前らの頭の中はお花畑かよ!
という気持ちになるかもしれません。
でもそれは間違っています。
何が間違っているのかというと、怒りの矛先です。
指導会訓練は本当に必要なのか!?と声を上げることは否定しません。
ですが、その矛先を訓練をしている人に向けてはいけませんよ。
組織の運営や訓練自体のシステムに向けてくださいね。
指導会訓練の〇〇が無駄だ!というならこっちの方法の方が良い!効率が良い!生産性が高い!と提案して欲しい。
そう思います。
自分ばっかり忙しく感じてしまって、組織として指導会訓練をやっているのがどうしても許せないなら、自分が消防士辞めればいいんです。
自分で道を切り開いていくのは大変です。だけど、「組織を変えたい!」と思うほどに強いエネルギーがあれば”自分を変える”のは簡単だと思います。
まとめ 私は指導会の救助訓練に取り組む消防士さんを応援します
私は指導会訓練肯定派です。
警防体制や予算、他の業務との兼ね合いを鑑みても訓練をすることのメリットの方が大きいと考えるからです。
先述したように訓練の成果はすぐに表れるものばかりではありません。
例えば、本を読んだからといったすぐ頭が良くならないですよね。
それと似たようなところがあると思うのです。
単に競い合うだけでなく、救助技術を身につけ、弱い自分と向き合うことで人間的に成長し、仲間の存在に感謝する気持ちを育み、共に高め合える仲間とつながる。
そういったところまで視野に入れて訓練に取り組めば、長期目線で効果はあるはずです。
今の所、これらのメリットを享受するのに救助訓練以外のやり方を私は知りません。
訓練の取り組み方は時代と共に変化していく必要がかもしれませんが、無しにするのには今のところは反対です。
どうか皆様、鍛え上げられた身体と決して諦めない心で多くの人を助けてください。
私が消防士をしていた頃から、「指導会は無くなるらしいよ」と実しやかに囁かれていましたが今も存続しています。
一市民となった私も訓練している様子を見ると「すごいなぁ、あの動きをするのにどれほど訓練をしたのだろう。」と感銘を受けます。
訓練をしたい人は一生懸命にできて、していない人は訓練している人を応援できる。
訓練を運営はそのためのシステム構築を考える。
人も車両も災害対応に支障が出るほど訓練させてはいけないし、している人もしていない人もお互いに気持ちよく過ごせるような環境を作れるのが理想だと思います。
私は、転職してからまだ3ヶ月ちょっとしか経っていませんが、もうすでにたくさんの失敗をして、何度も壁にぶち当たっていますが、そんな辛い時も、指導会訓練に比べればまだイケる!そう思えることも多々あります!私は指導会訓練に対しては感謝していますし、皆さんにとってもそうあってほしいなと思います。
100日後に辞める(辞めました)消防士は頑張る消防士さんを応援しています!
最後まで読んでいただきありがとうございました!!